自閉症の息子に描かせた自由画の目的は絵を上手に描くためではない
自由画は上手く描かせるためのものではないことをしっかりと心得ていないと、余計な口出しをしてしまい自由画ではなくなります。
息子に描かせた絵は、彼の心の排泄場所と表現したらいいのかなと思います。
自由画の取り組みポイント
@絵のテーマを提供してやる
絵のテーマは、彼が経験したことから選びました。始めた頃の息子は言葉の理解が難しかったので、経験して間がないことに絞りました。
絵のテーマが必要になるので、必然的に彼に色んなことを経験させる機会が増えました。
A1日に1枚しか描かない。
四つ切の画用紙に描かせましたが、画用紙は1日1枚だけです。
どんな絵になろうと、描き直しはありません。
Bパレットに絵の具を全色出しておく。
自由画は、絵の具で描きます。
息子には12色の水彩絵の具を使わせていましたが、彼は自由画を描き始めた頃は、青、黒などの限られた色しか使いませんでした。
でも、いつでも使えるように、描き始める前に12色全部パレットに出しておきます。
色んな色を自由に使うようになってからは、彼が自分で必要な色を出して使うようになりましたが、それまでは、勿体ないようでも全色出しておきます。
C鉛筆で下書きはしない
自由画には、下書きはさせません。
絵の具で描くので、一度描いたら描き直しはできません。
下書きしたり、やり直しができたりする絵は上手く描こうとする絵になってしまい、自由画ではなくなります。
最初はメチャクチャな殴り書きかもしれないけれど、やり直しできない絵は描く前にイメージする力をつけてくれたし、同時に観察する目も養われたと思います。
息子は視覚力が強いのですが、情景を言葉で説明するのは困難です。
見たことをイメージして絵にすることで、見ることで状況を判断する力が養われ、生活面でも役立ってきたと思います。
D描き終わるまで口出ししない。
彼と一緒に経験したことをテーマに描いているので、状況を思い出させるような話かけはしますが、描くことに関しては一切口出しはしません。
「こう描いたら、ああ描いたら・・」と指示した段階で、彼の思いの絵ではなくなり彼の絵は死んでしまいます。
もうそれ以上描かない方がいいのにと、思うこともしばしばでしたが、最後に塗りつぶしてしまうことになっても、彼自身が描き終ったと筆を置くまで描かせます。
5分で終わるときもあれば、1時間描くときもありました。
E道具の準備と片づけを教える
描くことに関しては一切指示はしませんが、道具の準備と片付けは教えます。
いつも同じ手順で、教えます。
こんな感じで、彼が小学生時代には、月に2、3枚の絵を描いていました。
中学時代は、絵を描く時間が取れずあまり描かなくなりましたが、養護学校高等部になり美術部に入部してから、絵の技法を教わるようになって彼の絵は美術作品に進化していきました。
美術部顧問のI先生は、「彼は空気が描ける!」と、彼に「風」を感じたのだそうです。
絵の技法を学ぶようになった彼は、スケッチブックに鉛筆で丹念に何枚も写生をし、写生したデッサンからイメージを広げ、50号の大きな1枚の作品を1年かけて描きあげるようになりました。